アンチロックブレーキ、ABSについて間違った理解をしているのをよく見かけます。
誤解① 『ABSが作動する直前が一番良く止まる』
この誤解は実害につながりかねない危険なものなので解いておきたい。車に詳しい(らしい)人が流布しているという困った話です。まずはABSについて一から勉強し直しましょう。
ABSがカリカリカリ、と作動し始めた瞬間というのは
4輪のうち1輪のスリップ率がしきい値(20%前後)に達した状態です。つまり残り3輪は多少なりともグリップに余力がある状態。だからもっと踏み込めば効きが増します。踏み増してもスリップ率は20%前後に維持されます。その時は複数の車輪でABSが作動するようになるのでガリガリガリ!と作動音が賑やかになります。十分に強く踏み込めば4輪のグリップ力をほぼ最大限引き出した減速が可能になる訳です。
以上を踏まえれば、この誤解がいかに危険かが分かるかと思います。この誤解にハマった人は、ABSが作動しはじめたところでそれ以上踏み込むのを止めてしまうことでしょう。さらに踏み込めばもっと早く止まれるのに、わざわざ自分で制動距離を伸ばしている訳です。ちゃんと踏めば回避できたはずの事故が起こってしまうこともあり得ます。
誤解② 『ABSが作動すると制動距離が延びる』
これはごく稀なシチュエーションを除いて間違いです。ABSはその時のタイヤと路面で最大限の減速性能を引き出してくれる機能です。
「ABSは制動距離を縮めるためのものではありません。」
という説明は、タイヤと路面の間で得られる摩擦の物理的限界を超えて制動力を高めることはできない、という意味です。そんなことしようと思ったらロケットで逆噴射でもしてやらにゃならんですな。物理的に当たり前過ぎてナンセンスな説明ですが、メーカーとしてはクレーマー対策として言っておかざるを得ない。
タイヤはスリップ率20%辺りが最も減速性能を発揮する領域です。十分に強くブレーキペダルを踏み込んでいる時、ABSは4輪別々にスリップ率が20%前後を維持するようコントロールします。ABSが無い場合、4輪のグリップの使い切り度合いはABS有りと比べて絶対的に劣ります。車輪は4つあってそれぞれのタイヤが発揮できるグリップは刻一刻バラバラに変化しているのに、ペダルひとつを人の足でコントロールしたってABSにかなうはずがありません。
この誤解②は誤解①とセットになるとタチが悪い。ABSが作動し始めたらそこがABS付きブレーキの限界だと勘違いしてそれ以上踏み込まないため、制動距離が伸びてしまう。こうしてABSへの不信感をセルフプロデュースしてしまう訳です。
もひとつ誤解する原因は次のようではないかと想像しています。アイスバーンのような滑りやすい路面でブレーキを踏んだ時にABSが作動し、いくら強く踏み増しても制動力が頭打ちになってしまう。ABSが邪魔をしているように感じる訳です。しかしこれはABSのおかげで4輪のスリップ率が20%前後を維持するようコントロールし続けている状態なので、仮にABSを無効化して踏み込んでもロックして制動距離が伸びるだけ。ABSが作動するとドライバーの踏力コントロールと実際のブレーキ圧の間に割って入って制御するため、ドライバーがタイヤの滑り具合を感じにくいという側面があるため、このように誤解してしまいがちなのだと思われます。
誤解③ 『ABSが効いているとハンドル操作が効く』
ABS作動中は多かれ少なかれ舵は効くので単純に違うという訳ではないんですが、どちらにしても通常の効き具合からは程遠いものです。その程度は車種によって結構差があります。ばっちり危険回避出来るくらい効く車種もあれば、強いブレーキングアンダーが出てほとんど曲がらない車種も。この違いはABSのセッティングの違いとシャシーセッティングの違いの両方が関係している模様。ただ、共通しているのはABSのおかげでスピンはしにくくなる、ということ。ABSはスリップ率を20%前後に保って最大の縦グリップを発揮させながらタイヤを転がせています。この時、ある程度の横グリップも発揮できる状態なので、ノーコントロールにはならない、ということ。自分の車がどんな特性なのか、一度は安全な場所で確認しておくことをおすすめします。
ABSを効かせて危険回避する際はブレーキペダルを強く踏み込み続けるのが原則ですが、もしも制動力よりもハンドルの効き具合を優先させた方が良いシチュエーションに遭遇した場合はブレーキペダルを踏み込む力を少し弱めてやります。そうするとタイヤの曲がる力が増えて曲がりやすくなります。ただし、これを瞬時に判断して的確に操作するにはだいぶ鍛錬を積んでいなければ難しいと思います。なので、結局のところ緊急時にはブレーキペダルを強く踏み込み続けましょう、となる訳です。


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